平成23年特許法等の一部改正に伴う改正条文(1)
平成23年特許法等の一部を改正する法律その1~その6では、平成23年特許法等の一部改正の概要を述べました。今回は、改正の内容について、条文を挙げながら詳細に検討致します。
1.通常実施権等の対抗制度の見直し
通常実施権を適切に保護し、企業の事業活動の安定性・継続性を確保するため、通常実施権に当然対抗制度が導入されました。
・通常実施権 は、登録その他何らの要件を備えなくても、その発生後に特許権や専用実施権の譲受人や、専用実施権の設定を受けた者に対して対抗することができようになり ました(特許法第99条第1項)。通常実施権には、特許権者の実施許諾による通常実施権(特許法第78条)、法定通常実施権(特許法第35条第1項、第 79条、第80条第1項、第81条、第82条第1項及び第176条)、及び裁定による通常実施権(特許法第83条、第92条及び第93条)がありますが、 いずれも含まれます。
・法定通常実施権について個別に定めた特許法第99条第2項の規定が削除されました。
・通常実施権の移転、変更、消滅、処分の制限、通常実施権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅、処分の制限について登録を対抗要件とすることはできなくなるため、特許法第99条第3項は削除されました。
・仮通常実施権についても、通常実施権と同様に、当然対抗制度が導入されました(特許法第34条の5)。仮通常実施権に関する権利変動の対抗要件(特許法第34条の5第2項)は削除されました。
・仮通常実施権 を許諾した者と特許権者(または専用実施権者)とが異なっている場合には、登録した仮通常実施権者に対してのみ通常実施権が許諾されたものとみなすことと されていました。今回、当然実施権制度が導入されたことに伴い、仮通常実施権を許諾した者と特許権者とが異なる場合であっても仮通常実施権者に対して通常 実施権が許諾されたとみなすこととなりました(特許法第34条の3第2項及び第3項の括弧書きの削除)。
・無効審判の請 求登録前の実施による通常実施権及び意匠権の存続期間満了前の通常実施権は、登録の有無にかかわらず無効になった特許に係る特許権又は期間満了となった意 匠権について通常実施権を有する者に法定通常実施権が認められることとなりました(特許法第80条第1項、第82条第1項)。
・通常実施権に関する事項が特許原簿の登録事項から削除されました(特許法第27条)。
・通常実施権者が薬事法上の承認等の処分を受けている場合には、登録の有無に関わらず、それを根拠に特許権の存続期間の延長登録請求ができることとなりました(特許法第125条の2)。
・通常実施権者 は、特許権者が答弁書を提出できる期間内に限り、不実施を理由とする裁定請求に対して意見を陳述することができることとなりました(特許法第84条の 2)。自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定(特許法第92条第7項)、公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(特許法第93条第 3項)にも本条が準用されます。
・特許出願に は、その特許出願について、仮通常実施権を有する者がある場合でも、その者の承諾を得ることなく、その特許出願の放棄または取り下げ(特許法第38条の 2)、国内優先権主張(特許法第41条第1項)をすることができることとなりました。なお、先の出願が取り下げとなった場合、仮通常実施権者の実施の継続 を確保するための措置を設けられています(特許法第3条の3第5項)。特許出願には、その特許出願について、仮通常実施権を有する者がある場合でも、その 者の承諾を得ることなく、その特許出願の実用新案登録出願(実用新案法第10条)または意匠登録出願(意匠法第13条)への変更をすることができることと なりました。この場合も、国内優先権主張についての改正と同様、仮通常実施権者の実施の継続を確保するための、承諾に代わる措置が設けられています(実用 新案法第4条の2、意匠法第5条の2)。
・商標法へは、通常実施権についての当然対抗制度は導入されません。